研究概要

(その1) ソレー効果(ソーレ効果)について


本研究室では、(1)ソレー効果の測定方法の改良・開発を行い、(2)材料や生体分子におけるソレー効果測定を通じて、この効果(現象)が物質の分子レベルの特性(構造や機能)とどのような関連を持っているのか、(3)生命活動とどのような関わりが有るのかまたは無いのか、(4)ソレー効果の産業応用に関する研究、などを行っている。

ここで、聞きなれない言葉である「ソレー効果」について簡単にまとめてみる。 ソレー効果(日本ではソーレ効果とも呼ばれる)は、これを系統的に研究し報告したフランス人のCh. Soret博士の名前を由来としている。彼によるソレー効果に関する論文は約150年前に出版されており古くに発見された効果である。Soretという名前が付いた現象であるから、彼が第一発見者と思われるであろう。実際、Soret博士もそう思ったようで、自分の名前をこの現象に与えてしまった。しかし彼よりも約20年前にこの効果を調べ発表している人がいたのである。それはC. Ludwig博士であり、現在ではLudwig博士にも敬意を表してLudwig-Soret効果(ルードヴィッヒ-ソレー効果)とも呼ばれる。

Ludwig-Soret効果の説明の仕方はいろいろあるが、簡単には以下のようになる。「混合流体において、安定な温度勾配を維持すると、安定な濃度勾配を形成させる効果」。または、「濃度勾配により誘起される物質の拡散と、温度勾配により誘起される物質の拡散が競合し、成分の分布が不均一となる現象」。ここでは対流が無いことが前提である。例えば、良く混ざった食塩水をコップに入れ、このコップを下から冷やすと温度の高い部分と低い部分が(温度勾配が)食塩水にできる。この条件下では、塩は均一に分布しているのではなく、塩の薄い領域や濃い領域が(濃度勾配が)食塩水の中に存在するのである。

さて、Ludwig-Soret効果は、非平衡熱力学という分野で取り扱わられる。エネルギー流や物質流などの流束(単位時間、単位面積に流れる量)は、温度勾配やケミカルポテンシャル勾配などの力によって引き起こされる。つまりゼーベック効果やペルティエ効果、フーリエの法則やフィックの法則などの良く知られている現象と、このLudwig-Soret効果は類似の取り扱いで整理される現象ということである。

しかし、整理されるからといっても単純ではない。現在においてもLudwig-Soret効果を定量的に予測することは難しい。上の例で言えば、どの位の温度勾配で、塩がどの程度濃くなったり薄くなったりするのか、しかも塩は温度の高い方へ向かって拡散するかそれとも低い方へ向かうのかなど、調べてみなければ分からない事が多々ある。現状では食塩水は良く調べられている方だが、もっと複雑な溶液や混合物を用いると測定自体が難しく、この現象については研究が進んでいない。実際、最近になって、気体や低分子溶液などで確立された経験則では説明のつかない異常なLudwig-Soret効果が水溶性高分子などにて報告されているが、それらのメカニズムの解明には至っていない。

我々の研究室では、主にソフトマターにおけるLudwig-Soret効果を理解するため、そして非平衡熱力学分野の発展に寄与することや産業応用などを視野に入れ、研究を行っている。

(その2)高分子の特性解析について


準備中