DCTC法
DCTC法は、1(Hz)以下のきわめて低い周波数領域を測定することができる手法である。試料が入ったコンデンサーに電圧を印可すると、回路には応答電流が流れる。この電流を時間の関数として測定し、ラプラス変換することで複素誘電率を評価する。


測定原理
誘電体が挿入されたコンデンサーに対して時間依存性がある電圧V(t)が印加されたとき、コンデンサーに充電される電荷Q(t)は緩和効果がともなうため
・・・(1)
で表される。ここでC0εV(t)は、V(t)に対して時間の遅れのない電荷である。またΦ(t)は応答関数と呼ばれ、時間に対する電荷のたまり方を表す関数である。今、V(t)がt<0でV(t)=0、t≧0でV(t)=V0である直流ステップパルス電圧の場合を考える。すると(1)の積分方程式は簡単に解くことができる。そのときの電流I(t)は
・・・(2)
となる。また応答関数は複素誘電率と次の関係で結ばれている。
・・・(3)
ここで£は次のラプラス変換を表す。
・・・(4)
(2)、(4)より
・・・(5)
得られる。以上より直流ステップパルスに対する応答電流を測定し、それをラプラス変換することで複素誘電率が求められる。


測定装置
電源には、長時間にわたり安定した電圧を加えられる高電圧積層乾電池(300V)を使用した。これを用い、試料を入れたコンデンサーに充電を行う。一般に充電電流は直流電気伝導成分が含まれるため、電流値がオフセットされる。そこで電流値の減衰過程を正確に測定するため、十分長い時間充電した後、放電電流の測定を行う。

回路を流れる応答電流は、短時間域(放電直後)では急激な時間変化をするが、長時間域(放電開始から十分時間が経過した時)ではゆっくり変化するようになる。そのときの電流値は、充放電直後では10-6Aから、10-14A以下まで減衰する。このため応答速度が速く、ダイナミックレンジが広い電流測定装置が必要となる。

分子物性研究室では、最小電流分解能10-17、時間分解能1sであるVIBRATING REED ELECTROMETER (ADVANTEST TR8411)を使用している。最小電流分解能における時間分解能は30sである。しかし長時間域での電流値はほとんど変化しないため、時間分解能の低さは問題にならない。

DCTC法を用いてμHz領域の複素誘電率を正確に得るためには、106s以上の長時間にわたり、10-14A以下の極めて低い電流を安定して測定しなければならない。これには長時間にわたる正確な温度制御と様々な要因によるノイズをおさえることが必要となる。本研究における測定装置、ケーブル等は、電磁シールドと温度調整した恒温除湿漕に納めた。電流計の電源には独立したものを選び、外部からのノイズを完全に遮断した。また測定された電流値は、AD-converterを通して直接パーソナルコンピュータで記録させた。