入力補償型DSC
サンプル[試料(s)]とリファレンス[基準物質(r)]を それぞれパン(容器)に入れてホルダーに設置し、両者を同 時に一定速度で加熱(冷却)する。サンプルとリ ファレンスの間の温度差 を温度センサー(ここで は示差熱電対)で検出し、高利得アンプで増幅す る。示差電力補償回路では、この温度差がゼロに なるように、各ホルダー内のヒーターに電力を供 給し、補償しながら一定速度の加熱(冷却)をす る。単位時間当たりサンプルに供給される熱量dq s/dtとリファレンスに供給される熱 量dqr/dtとの差dq/dtを、温度また は時間の関数として記録する。

熱変化によってサンプルに吸熱が起こるとサンプ ル側に、また発熱が起こるとリファレンス側に、 それぞれ内部ヒーターを通して、熱量が供給され る。その結果、吸熱(発熱)反応のあった温度で dq/dtは最大となる。また、潜熱をともなう相転 移ではサンプルの温度が変わらないので、サン プルまたはリファレンスに熱量を供給して温 度差をゼロに保つから、見かけ上は吸熱また は発熱ピークと同じようになる。

入力補償型DSCにおいて、サンプル及びリファレ ンスホルダーでの熱の収支は、パン、ホルダー などサンプル以外の加熱部分の熱容量をC p、サンプルの質量をm、サンプルの 比熱をcp、温度をT、入力される熱量 をQ、輻射、対流による熱損失をQ’とすると、そ れぞれ次のような式により与えられる。
・・・(1)
・・・(2)
(1)式と(2)式の差をとると、
・・・(3)
となり、入力補償型DSCでは、Ts=T rとなるように制御されているので、 (3)式の左辺第2項は相殺される。また、T s=Trであれば輻射などによ る損失Q’は、サンプル側とリファレンス側とで 等しいため、(3)式の右辺第2項も相殺される。 従って(3)式は、
・・・(4)
となり、入力補償型DSCは右辺を直接測定すること で、サンプルの比熱cpの変化を観測できる。

我々が所有しているPerkin Elmer社製のDSC7示差 走査カロリメーターは、サンプル側と リファレンス側にそれぞれ独立したヒーターと温度 センサーを持っており、それぞれが断熱状態にある。 温度センサーには白金抵抗体を使用しており、 0.00001℃の検出能力を持つ。これは、熱電対の 100倍以上の感度にあたる。またサンプルホルダー は白金イリジウム製であり、白金センサーと共に 耐熱性、耐腐蝕性にすぐれている。システムの制御は、 2つの制御ループで行われる。第1の制御ループにより、 サンプルとリファレンスの温度はプリセットした プログラムに従って制御される。第2の制御ループ ではサンプルとリファレンスの間に温度差が 生じた時、この差を除去するように入力電力 を調節する。この制御は1秒間に250回繰り 返される。こうして、サンプルへの熱入力とリファレ ンスへの熱入力の差d(Qs-Qr)/dtを出力する。