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水 − 物質・生命のうつし絵 −

 



  何をしたいのか?
1.観測システムの構築 − 液体の複雑さはそのダイナミクスと階層構造にある

2.凍らない水 − 10ピコ(10-11)秒で動く速い水から遅いガラス水まで

3.生命のしくみ − 生命の分子機能は水構造が支配している

4.水で観る物質・生命の健常性 − セメントの強度は水に支えられている

  水だけに可能なこと − 物質・生命のうつし絵

 

 

 何をしたいのか?

 

私たちは「分子複雑系・生体系の物理」あるいは一般には「ソフトマターの物理」とか「生物物理」とよばれている分野にまたがった研究をしています。生体などの物質中の水が形成する多様な時空間構造の観測システムを構築し,これらの性質やしくみを詳細に理解し解釈していくことで,新たな自然・生命観を構築していきます。これに付随する様々な複雑系の理解を進め,可能になる応用分野を広げていきます。

 

1. 観測システムの構築 − 液体の複雑さはそのダイナミクスと階層構造にある

いま,教室内の学生たちの構造を考えてみましょう。彼らは何人かでグループを作り,これらのグループがさらに集まってクラスを作ります。この様な階層構造は液体でも同様で,いくつかの液体分子が集まって特徴的な階層構造を形成していきます。分子が自由に位置を変える気体や,安定な位置に留まる固体と異なり,液体分子はそれが含まれる物質や生体中でダイナミックな階層構造をとっており,それぞれに特徴的な時空間構造を有しているのです。たとえば,授業中に自由に席に着いている学生は,何人かずつグループ構造を形成します。この構造は授業ごとに生成・消滅を繰り返し,その授業時間が特性時間(構造の寿命)となります。もし観測に1日4クラス分の時間がかかってしまうと,各クラスの写真計4枚を重ね合わせた様な構造が観測されてしまいます。観測時間に1年を要すると,1000枚のクラス写真を重ね焼きすることになりますから,そこにはただ教室内にまんべんなく座っている学生たちが写っているだけで,グループ構造は跡形もなく消えてしまい,見つけることができなくなってしまいます。水は典型的な複雑系物質で,このような時空間構造が様々な物質や生体の性質や働きを支配しています。従って私たちがまず行うこと,それは時空間構造の観測・解析システム(超広帯域誘電分光観測システム:BDS)を開発し,新たに構築していくことです。

 

2. 凍らない水 − 10ピコ(10-11)秒で動く速い水から遅いガラス水まで

通常皆さんが目にする水の中では,10ピコ(10−11)秒ごとに水分子6個ほどが互いに力をおよぼしあっている水構造をとっています。たとえば温度を下げていくと分子運動は遅くなっていきます。また,水に他の物質を混ぜてやると,水分子と他の分子の間に力が働いて,水分子の集まる数や速さが変わっていき,場合によっては温度を下げても凍らなくなります。この不凍水の温度をさらに下げていくと,通常の氷よりもさらに遅い水が得られます。これをガラス水とよびます。一般にガラスとよばれている物質はこのような遅い液体のことなのです。現在私たちは通常より1京(1016)倍も遅いガラス水を観測しており,このような水の時空間構造が生体や食品を凍結によるダメージから守るしくみが判ってきました。

 

3. 生命のしくみ − 生命の分子機能は水構造が支配している

 

私達の身体の2/3くらいは水です。脳の場合には約90%が水です。私たちはあまりにも水に近く,そのためもあってか水を正確に理解することは皆さんが想像するよりもずっと難しく,遅れているのです。遺伝情報を含むDNAや生体機能を実現するタンパク質分子の特徴的な立体構造は,これらの生体分子の高度なはたらきの仕組みと直結しています。しかしこれらの立体構造は周囲の水によって決定されるもので,周囲の正常な水構造が前提となっています。生体分子周囲の水構造は生体分子同士が出会って起こす最初のやりとりに関与するものですが,私たちはまだそのはたらきを正確には知らないのです。

 

4.      水で観る物質・生命の健常性 − セメントの強度は水に支えられている

 

セメントと水を混ぜて固める作業を見たことがある人は多いでしょう。でもセメントが固まるのは乾いて水が無くなってしまうからだと誤解している人も多いかもしれませんね。実はこれは間違いです。もしも固まっているセメントブロックから水を除いてしまったら,セメントは粉々になって崩れてしまうでしょう。実際には水分子とセメント粒子が共に構造を作って硬化していくのです。最近の私達の観測から,セメント中の水は何年もかけて徐々に遅い水になっていく様子がわかってきました。コンクリート建築物は10年かけてまだ丈夫になっていく一方で,不良工事や環境汚染などの原因で早く崩壊する場合があり,内部の水構造からの崩壊予測は重要な関心事です。水を観測して調べることで,様々な物質・生体の健常性を評価することができます。この方法は土木・建築,医療,薬品,電気・電子,化成,食品など,様々な分野で適用することが可能で,何と言ってもその応用の幅広さが一番の特徴になっています。

 

 

 水だけに可能なこと − 物質・生命のうつし絵

水は多くの物質のひとつに過ぎません。しかし水は他の物質と共に特徴的な構造を形成し,機能を発現していく能力において,ずば抜けた特別な物質なのです。それは地球上でのみ特別なのではなくて,この宇宙全体でも特別な物質なので,生命の地球外探査でも水の存在がポイントになっているのです。しかし,水は私たち自身でもあります。だからこそ逆に,私たちが水を観測して理解することは極めて難しいことなのです。水はそんな私たち自身も含めた物質や生命のうつし絵なのです。

 

 

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Last Revised: Jan. 2005