分子性液体
エチレングリコールオリゴマー水溶液の動的構造と緩和時間分布

水は生命にとって重要な物質で、他の物質に比べ特異な性質を示すことが知られている。こらは水が分子間に働く水素結合により、氷の構造に似たクラスター構造を形成しているためと考えられている。水の物性に関する研究は古くから行われているが、水の運動がGHz(ピコ秒)よりも高い周波数域に存在するため、従来の実験方法では測定が困難であった。近年、開発された超高周波域誘電分光システムは、水の運動を十分観測できる。これを用いることで、水や様々な水溶液のダイナミクスが観測されるようになった。しかし水の動的性質は十分理解されていない。

高分子水溶液中の水の誘電緩和曲線は、吸収曲線が対称に広がったCole-Coleの式で記述される。一方、低分子量多価アルコール水溶液の誘電緩和は、吸収曲線が高周波側に広がったKohlrausch-Williams-Watts (KWW) の式で記述される。高分子水溶液と低分子量多価アルコール水溶液における吸収曲線の対称性の違いは水と溶媒分子の協同運動性の違いが反映されたものである。

本研究では、繰り返し単位数 が異なるエチレングリコールオリゴマー (EGO)水溶液の誘電測定を行い、溶質分子の大きさと水の協同運動性について報告する。試料にはエチレングリコール (EG)、ジエチレングリコール (2EG)、トリエチレングリコール (3EG)、テトレエチレングリコール (4EG)、ペンタエチレングリコール (5EG)、ヘキサエチレングリコール (6EG)を10%-100%の水溶液に調製して、使用した。

得られた結果から、繰り返し単位数2以下のEGO分子は水分子と協同運動を行なえるが、3EGよりも大きい分子では、水と溶質分子は協同的に運動できないことが解った。

N. Shinyashiki, S. Sudo, W. Abe, and S. Yagihara "Shape of dielectric relaxation curves of ethylene glycol oligomer-water mixtures" J. Chem. Phys. 109(22), 9843-9847 (1998).

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