Biological System(生体組織)
骨格筋における自由水、不凍水の特性

  筋線維は、組織学的に赤筋(red muscle)と白筋(white muscle)とに分類される。機能的に見れ
ば、赤筋は遅筋と言われ、ゆっくり収縮し疲労しない。これに対して白筋は速筋と言われ、短時間
に収縮するが持続しない。赤筋と白筋は、肉眼的に見て名付けられた名前で、Myoglobin、酵素、
Glycogenの含有量、毛細血管の発達などに相違が認められている。また筋がその固有の機能を
発揮するためには、筋を構成している生体高分子が一定の高次構造を保たなければならない。
その際、生体高分子と水との相互作用は、高次構造の安定性や機能発現と密接に関係している。

  一方、誘電緩和測定において生体高分子-水系や合成高分子-水系で観測されている水は、
主に次の3種類の状態が存在する。高分子と水素結合し高次構造を形成している“結合水”、高分
子から十分離れた位置にあって純水と同じ性質を持つ“自由水”、凍結過程において氷の結晶構造
に取り込まれない水すなわち“不凍水”である。

  筋繊維は水と収縮性のタンパク質などの生体高分子、有機小分子、無機イオン等が混在した
複雑な系である。この複雑系中の水構造がどのような状態であるかは、大変興味深い。本研究では
TDR法を用い、赤筋、白筋中の自由水、不凍水の緩和過程を観測し、それぞれの水構造を解明
することを目的とした。

  実験の結果から、赤筋、白筋の自由水の活性化エネルギーは同じで、タンパク質水溶液中の
自由水に比べると明らかに小さい値であることが解った。一方、赤筋、白筋の不凍水の活性化エネ
ルギーは、赤筋のほうが白筋よりも大きな値を示した。また水分量は赤筋のほうが多いことが解った。
これは白筋と赤筋の組織化学的な相違が不凍水に反映され、そこでの水構造は異なると考えた。
他の詳細な検討については、次の論文に報告している。

D. Kurita, M. Haida, Y. Shinohara, E. Furuhashi, N. Miura, N. Shinyashiki, S. Yagihara, and S. Mashimo, "Dielectric Study on Tissue Water by a Time Domain Reflectometry Method", Proc. School Sci. Tokai Univ., 32, 85-94 (1997).

栗田太作, 灰田宗孝, 篠原幸人, 古橋栄介, 三浦信広, 新屋敷直木, 真下悟, "骨格筋における不凍水の特性", 東海大学スポーツ医科学雑誌, 8, 55-60 (1996).

栗田太作, 灰田宗孝, 篠原幸人, 古橋栄介, 三浦信広, 新屋敷直木, 真下悟, "骨格筋における自由水の特性", 東海大学スポーツ医科学雑誌, 7, 99-104 (1995).

栗田太作, 灰田宗孝, 篠原幸人, 古橋栄介, 新屋敷直木, 三浦信広, 真下悟, "骨格筋の強縮に伴う水のダイナミクス", 東海大学スポーツ医科学雑誌, 6, 80-87 (1994).

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