1.高周波誘電測定システム(twin-T Bridge)の構築による高分子希薄溶液の研究
(1968-1974)−早稲田大学岡本研究室配属から学位取得まで
真下先生の研究歴は早稲田大学理工学部応用物理学科岡本重晴研究室における卒業研究から始まる。
卒業研究では,故岡本重晴教授の指導によって,1MHz-100MHzの周波数範囲での誘電率測定が可能な
高周波誘電測定システム,twin-T Bridgeを,株式会社フジソクで製作した。この測定周波数領域では,
特に溶液中の高分子の誘電緩和を観測することができる。
従来のブリッジではこの高周波領域での
誘電測定ができなかったため,後に市販されたこの装置は多くの大学や企業の研究室で購入された。
この測定システムは後の理学博士の学位取得まで,さらに早大における共同研究者となる後輩の大学院
生の博士,修士の学位取得まで用いられることになった。指導された岡本先生は真下先生が大学院修士
課程進学後に亡くなられた。
その後当時早稲田大学理工学研究所教授故篠原健一教授の研究室に所属し
て高分子物理学について,また同理工学部化学科の故東健一教授に物質の誘電的研究に関する指導を
受けながら研究を進められた。さらに故岡本先生の後任として赴任された千葉明夫教授および千葉研
究室の大学院生の数名と共同研究を行った。以下にその概要を述べる。
(1) 希薄溶液中における高分子のGlobule-Coil転移 [1-3, 5, 7, 10, 13]
従来不可能であった高分子溶液の誘電緩和の観測をtwin-T Bridgeによって可能にした。
ここで観測される緩和過程は高分子鎖の形態を反映している。
toluene, benzene, dioxane, carbon tetrachloride 等の溶液中でのpoly(vinyl acetate)
(PVAc ),poly(vinyl chloride),poy(alkyl methacrylate),poly(styrene)誘導体等の
誘電的性質を測定したところ,これらの緩和パラメータの温度依存性から,分子鎖がある
転移温度以上ではrandom coil,転移点以下ではコンパクトに収縮している形態になってい
ることを示唆する転移現象が見出された。この転移は理論的に予測されるGlobule-Coil転移
と考えることができ,Globule-Coil転移を示唆する初期の実験結果となった。
(2) Kramers理論による高分子鎖のダイナミックスの研究 [4, 6, 9, 11, 12, 14]
ポテンシャルを越えて拡散していく粒子の確率過程を示したKramers理論がHelfandによって
高分子鎖のセグメンタル運動に適用された。真下先生はさらにこれらで溶液中の高分子のセ
グメンタル運動を反映する誘電緩和の緩和パラメータを表現することで,緩和時間を分子内
部回転のポテンシャル障壁や運動単位が周囲から受ける摩擦係数で評価することに成功した。
これを分子間相互作用と分子内相互作用,さらに溶媒との相互作用等を分離して解析する手
段とし,実験で温度や濃度を変化させたときの各パラメータの依存性を決定して,その緩和
過程が反映するダイナミックスを評価した。
故真下悟先生は1946(昭和21)年,群馬県に生まれ,1965(昭和40)年早稲田大学理工学
部応用物理学科入学まで群馬県高崎市で過ごした。
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[Department of Physics]
[Tokai Univ. Computer Center]
Mikio Oyama
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