3.時間領域反射測定(TDR)システムのリファイン(1978-1984)−米国滞在から帰国後のTDRシステム構築まで

 1978年7月より翌10月まで,米国ロード・アイランド州のブラウン大学に 客員教授として招かれ,故R. H. Cole教授とともに,Time Domain Reflectometry(TDR) システムによる誘電緩和測定の測定・解析法の改良に取り組んだ。また,滞米中の後半 ではさらにダートマス大学のW. H. Stockmayer教授等も加わって高分子溶液のTDR,NMR 測定の研究を行った。帰国後には東京大学理学部の和田昭允教授等と共にTDRシステムを セットアップした。遅れて1983年になってようやく東海大学で1台目のTDRがセットアップされた。

 帰国後東海大学ではアリゾナ州立大学R. N. Work教授を研究室に迎え,twin-Tブリッジを用い, 一年間にわたって高分子鎖上の双極子相関に関する共同研究を行った。

 さらにdc transient current (DCTC)法による低周波領域での誘電緩和測定 システムを構築して固体高分子のガラス転移の研究を行った。   真下研究室では大学院修士課程に進む学生が増える兆しがあったが, まだ物性系の博士課程は無く,他大学に進学していた。また共同研究者とし て学内外の教員や非常勤講師が研究に参加する場合が出てきた。
 (1) TDRにおけるdifference法の開発 [19, 22, 23, 25, 26, 31, 41, 55]
 真下先生がブラウン大学を訪れた当時,Cole教授は従来のTime Domain法に対して ,より正確な解析法を用い,物性研究の手段としての評価に耐え得るシステムとし ての改良を行ったところであった。GHz帯までの周波数領域で,アルコール等緩和 強度が数十におよぶ会合性液体の誘電緩和を観測することができるようになった。 真下先生はtwin-Tブリッジで高分子溶液を測定したように,TDRでも標準試料を用 いる手法で,緩和強度が0.1以下の高分子溶液の測定を可能にした。これにより, 高分子の局所運動を希薄溶液中でも観測できるようにし,さらにその解析法を発展させていった。
(2) twin-Tブリッジによる高分子溶液の研究 [28]
 ポリスチレン誘導体を用いた共重合体poly(4-chlorostyrene, 4-methylstyrene)ベンゼン溶液のtwin-Tブリッジによる誘電緩和測定から, その有効双極子モーメントの濃度,温度,組成比依存性を求めた。得られた平均 2乗双極子モーメントの正の温度係数は反平行の配列が温度上昇によって破壊される ことを示している。温度係数と平均2乗双極子モーメントの組成比依存性は同様であった。
(3) DCTC法によるポリ酢酸ビニルの誘電緩和 [29, 32-37, 42, 45]
 DCTC法による誘電緩和測定システムをセットアップした。低周波数側は 10−6Hzまで測定可能であった。ここまで低周波数領域での測定が可能で あったのは10−16Aまでの微少電流測定を可能にしたためで,東海大学理 学部物理学科の武石勝治先生等との共同研究の成果であった。 通常のDCTC システムでは最低周波数が10−4Hz,10−14A程度であった。通常の変成器 ブリッジとDCTCとを両用して得られた広い周波数領域でのPVAcの誘電緩和測定 を行い,その緩和時間分布を特徴づける表現としてHavriliak-Negami(HN)関数 を用い,ふたつのパラメータの物理的意味を考察した。 このデータはこれ 以後,ガラス物質の緩和過程の議論にNM(Nozaki & Mashimo)のデータとしてr eferされる標準データのひとつとなった。
(4) 東海大学におけるTDRシステムのセットアップと初期の研究 [38-40, 43, 44, 49]
 ようやく東海大学でTDRシステムを組んだのは1983年夏であった。既に東京大学で従来 とは異なるメーカーのオシロスコープを中心にセットアップしていた。東海大学では さらに解析法や電極等の開発を進めることで,測定周波数域の上限が10GHz付近にま で伸びていった。後年TDRを適用していくことになる多彩な物質群を予見させる様に いくつかの典型的な物質が測定された。まずoxide polymer である poly(propylene oxide) と poly(ethylene oxide)の希薄溶液の誘電緩和測定から normal mode theory に 基づくダイナミックスの解析を行った。

またpoly(γ-methyl L-glutamate,γ-p-chlorobenzyl L-glutamate)共重合体のヘリックス溶媒であるジオキサン希薄溶液のTDR測定から, 棒状分子側鎖のダイナミックスを解析した。次に propanolとdioxane, cyclohexaneの 混合物のTDR測定を行い,その液体構造を議論した。さらにリン脂質のchloroform溶液のT DR測定からリン脂質分子の内部運動を観測した。  これらは何れも従来の測定周波数領域では観測できなかった測定である。 さらにこれらの高分子,液体,生体関連分子は,後の水系や生体系への適用に発展して 行く物質群であった。
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[RGMS] [Department of Physics]
(C)Research Group of Molecular complex System


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[Department of Physics] [Tokai Univ. Computer Center]

Mikio Oyama
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