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RGMS院・卒研生希望者 とのQ&A:


RGMSにおける研究活動に興味がある方への一般的なコメントはRGMSのホームページに記載してありますので,そちらをご覧ください。ここではさらに私の個人的見解も含めたコメントとして,

1.2005年度(および2004年度)卒研生募集要項

2.RGMS大学院生,卒研生配属希望者とのQ&A

3.研究者を目指す方とのQ&A

を掲載しておきます。

 

 

 

1.  2005年度卒研生募集要項(200411月)

 

教員名:  八木原 晋       

 

卒研テーマ(総称):超広帯域誘電分光(BDS)による水複雑系の時空構造解析  定員:若干

 

説明会の希望: [11/24,最後の時間帯を希望]    説明会で使用したスライドの一部

 

研究テーマ・内容(今まで,現在,今後など): 

水複雑系(水,液晶,高分子,タンパク,DNAなどの分子群やこれらの複合体,固体デバイス,マイクロカプセル,製薬・製剤,コンクリートなど,主にソフトマターやインテリジェントマテリアルの物性から細胞,食品,生体組織,脳,生命などカオス的挙動を伴う生命現象や医療まで)を,国際的に最も広い観測時間窓を有するオリジナルの広帯域誘電分光(BDS)システムを構築して観測します。これらの物性・機能の分子レベルでのメカニズムをそのダイナミックな時空構造から解釈するため,スケーリングやフラクタル等の数理物理学的概念によるユニークな解析を導入した基礎・応用研究を行います。卒研専用テーマはなく,現場で進行中の研究テーマになります。これらのテーマや内容・手法については,http://www.sp.u-tokai.ac.jp/~RGMS/publicationなどを参考にして下さい。

 

どんなことが身に付くような指導をするか:

分子ダイナミクスの17桁時間窓観測をオリジナルなBDSで実現することで,東海大学だけで可能な新規な一次情報取得とこれによる理論的解析手法が,ユニークな「香り」のある研究として評価されています。卒研生は,水複雑系ダイナミクスに関する新たな実験的アプローチと数理物理学的概念による解釈を,より一般的な方法論として確立して新たな研究分野の構築をめざす研究グループに加わることで,これらの基本的な知見や実験・解析技術を身につけるための努力をすることができます。さらに,研究上の新たなひらめきやブレイクスルーが,未知の自然現象に対する周到な実験計画,粘り強い解析,そして研究継続の強い意欲と集中力によってはじめて可能になるという自然科学の研究現場を見聞きし経験することで,自分の将来をデザインし,実現していくはじめの一歩にできるでしょう。

 

どのような方法で指導するか:

私の非力と多忙のためもあり,卒研指導の現状に満足していませんが,卒研活動を実際に始めれば,各研究テーマ内の限定的な指導だけでなく,大学院生はじめ,国・学内外の共同研究者も含む研究活動全体が研究指導環境として機能することを期待しています。皆さんに提供したいスタンダードは次のようなものです。卒研:試料調製,データ取得・解析方法を会得して論文作成に寄与すること。修士課程:設定されたテーマについて,自ら実験・解析を計画・遂行し,さらに報告書や学術論文を自分で書くこと。博士課程後期:テーマ設定から論文公表までの全ての研究活動を独力で遂行する研究能力を段階的に示していくこと。このためには,どんな指導法をとるにしても,まず本人自らが意識的にこれらを目指していくことが重要です。これらの能力開発の各段階を背景にしての就職活動となります。

 

望ましい先修科目:

原則として卒研を除く全ての必修科目と,全ての物理実験科目。また,自分の科学的興味に基づいて,これまで何かを独自に調べたり,考えたりした経験をもっていること。

 

卒研・院生数等研究室構成: 

現在卒研生4名,院生4名,ポスドク・非常勤講師1名,研修員2名です。分子複雑系研究グループ(RGMS)として新屋敷研学生の他,工・医学部や他学科,他大学学生,学外研究者などの滞在が随時あります。来年度2名が申請中の外国人ポスドクが1名でも通れば,さらに多様で刺激的な面白い研究活動が期待できるでしょう。


卒研希望者への要望:

次のような希望や考え方と私の考えは正反対なので,思い通りの共同研究ができず,互いに辛い思いをしてしまった経験が何度かあります。卒研についての基本的な考えが異なる場合の選択には疑問が残ります。

         まず基礎学力を付けたい >> 研究活動を通じて学力不足を認識するのは当然で,基礎学力取得の良い動機付けになりますが,ここでは研究目的のない基礎勉強は設定しておりません。

         基礎学力不足なので実験系を選ぶ >> 基礎学力は理論でも実験でも必要です。実験屋には特徴的な実験センスが必要とされますが,そんな高度な話以前に,実験計画立案からデータ解析まで進めていく各過程で常に基礎学力が要求されます。卒研は実験の授業と異なり,実験前の計画立案時に既に基礎学力が必要になります。

         潤沢な予算・研究施設で活動したい >> サイエンスの醍醐味とは本質的に異なる範疇のことです。

         自分独りの成果を得たい >> 現在のBDS観測・解析システムは独りでも使用可能ですが,過去数十人が構築・改良してきた集大成ですので,これらを無視してあつかうには荷が重く,「独り」の意味が全く違います。

 

ゼミ等の日程(使用テキスト):

セミナーは少なくとも週2回計4コマ。研究報告やその内容に直結した文献調査報告・講読などです。基礎的な文献講読を採り入れる場合には,一般的な「物性論」,「統計物理学」,「分子生物学」,またはフレーリッヒ:「誘電体論」の何れか,また重要な新旧学術論文などを用います。論文の場合,ほとんどの文献は英語で書かれており,これについても意識的に能力開発の良い機会として捉えてください。また,実験や解析,文献調査,報告書作成などの研究活動は授業期間に関わりなく毎日行われます。毎日行うものを研究活動と呼びます。

 

就職・進学について,私はこう思う:

この5年間の卒研生20名の進路は,就職4名,専門学校他2名,大学院進学14名です。就職の研究室枠は特になく,ご自分で探していただくことになります。卒研活動が活発な卒研生ほど就職内定が早い一般的傾向があり,就職活動の重要なヒントであると思われます。大学院では博士の学位取得まで全ての研究活動を行うことができます。RGMSの大学院出身者で10人ほどが現在様々な大学で継続的に研究しており,アカデミックな研究活動への志向が比較的強いようです。就職,進学どちらも,ソフトマターや生命科学分野の希望者は,物理学科の授業科目以外の関連基礎分野にも意識的に対処し,学習していく必要があります。

研究室の学生からのコメント:

私を通すと元の設問の趣旨と違ってしまいますから,例年どおり3年生の質問に直接答えるようRGMSの全員に依頼してあります。是非研究室(17号館5階501研究・実験室)を直接訪ねて,聞いてみてください。もちろん人それぞれの考え方がありますから,聞くのならいろいろな人に何でも聞いてみると良いでしょう。ただし,そのやりとりの内容を私は関知しませんので,それらに多少の誤りがあっても仕方ないと考えましょう。

 

面談可能な日時および場所:

この期間中は行事や締め切りが目白押しなので,必要な情報はホームページや研究室のメンバーなどから取得してください。質問はe-mail(yagihara@keyaki….)でどうぞ。希望者は,説明会後の「その週のうち」に,その旨e-mailでお知らせ下さい。順次何度かのやりとり後,面談して決定しましょう。これらのやりとりは卒研の進め方に関しての互いの誤解を防ぐためのものですので,ある程度時間が必要ですから,このスケジュール後の受け入れは困難です。

 

その他:

事前確認なく希望された方を受け入れた事は従来ありません。今回も同様に考えております。

 

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以下参考に,2004年度卒研生募集要項(200311月)を残しておきます。

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教員名:  八木原 晋 

卒研テーマ(総称): 超広帯域誘電分光による水複雑系の時空構造解析  定員: 若干

説明会: [11/19

研究テーマ・内容(予定,現在・過去等): 物質中で水は多様な時空構造をとっています。

水複雑系(水,液晶,高分子,タンパク質,DNA,薬品などの分子群,またこれらの集合・複合体,超分子構造体,固体デバイス,マイクロカプセル,製薬,製剤,コンクリートなどのソフト・インテリジェントマテリアル,さらに細胞,食品,生体組織,脳,生命などカオス的挙動を含む複雑系の自然現象や医療)に関する基礎研究と応用研究を,分子複雑系研究グループ(RGMS)に所属して行っていただきます。

 上記水複雑系物質群の時空構造や物性・機能の分子メカニズムを分子ダイナミクスの観測・解析から理解するため,国際的にも最も広い時間窓の広帯域誘電分光(BDS)システムを構築し,スケーリングやフラクタル等の物理学的概念によるユニークな数理的解析法を提案しています。これまで開発してきたオリジナルなBDSシステムは,RGMSだけで可能な水複雑系ダイナミクスの17桁時間観測窓観測を実現し,新規な一次情報取得と,ユニークな「香り」をもつ解析手法をもたらしています。この研究スタイルが,国内外の多くの研究機関との共同研究や高いスタンダードでの研究活動を可能にしています。

 卒研専用の研究テーマ設定はなく,研究現場に入っての研究活動となりますので,研究テーマはその時の「旬のもの」になります。具体的にはRGMSURL http://www.sp.u-tokai.ac.jp/~rgms/ )のpublicationリストで見ることができます。

期待される能力開発: 水複雑系のダイナミクスに関する新たな実験的アプローチと基本的な概念による解釈を方法論として確立していくことで,新たな研究分野の構築をめざしていくことに当研究室の存在意義があると考えています。学生はまず研究遂行に必要な基礎学力や実験・解析技術を得るでしょう。さらに研究上の新たなひらめきやブレイクスルーが,未知の自然現象に対する周到な実験計画,粘り強い解析,そして研究活動への強い意欲等を,長期間集中してはじめて得られることを自ら経験する一年にすることが可能です。これはRGMSが将来研究者を目指す学生に提供できる最も重要な要素で,研究者に必要な自発的能力開発の強力な動機付けになるでしょう。

望ましい先修科目: 必修科目と全ての物理実験科目。

また,自分の科学的興味に基づいて,独自に調べたり考えたりした経験をもっていること。

使用するテキストなど: 各種「統計物理学」,フレーリッヒ:「誘電体論」,重要な新旧学術論文等。

卒研・院生数等研究室構成: 卒研生4名,院生5名(内1名は医学研究科),ポスドク・非常勤講師1名,研究員1名。共同研究している新屋敷研学生。他に随時,学外研究者の滞在があります。

主な論文: RGMSのホームページでpublicationリストを見てください。

17号館501実験室前の廊下でそれぞれの論文のabstractも見ることができます。

指導方針: 高いスタンダードで研究活動を通じた教育を行ないます。

多忙のためもあって,私の卒研生への指導は十分とは言えないと認識していますが,正常な卒業研究活動に入れば,学内外の共同研究者を含めた研究環境全体が研究指導環境として機能するはずです。卒研生の研究能力が未開発なのは当然ですが,本人に研究能力や基礎学力向上への持続的努力や,共同研究者との間で必要な自発的ディスカッションが見られない場合には指導しようがありません。

卒研希望者への要望: 次のようなご希望や考え方の方と私との共同研究は互いに辛いものになるでしょうから,RGMSでの卒研の選択を避けるべきかと思われます。説明も後に付けておきます。

・まず基礎学力を付けたい。・・・基礎勉強自体は研究と全く異なる別の行為です。RGMSの研究活動を通じて認識する学力不足は重要な基礎勉強のチャンスですが,それを目的にはしていません。

・基礎学力不足なので実験系を考える。・・・実験には巧妙な工夫,周到な計画,測定中の即断力が必要なうえ,数学と同様に,道具を超えた物理的描像の表現手段そのものでもあります。ここで要求される独自性や実験遂行能力の個人差は極めて大きく,基礎学力や素質がモノを言う世界なのです。

・潤沢な予算・研究施設で活動したい。・・・優秀な研究者であれば,液体とガラス管だけでも,一流の学術論文を作成できます。私はそこにこそ,サイエンスの最も大きな醍醐味を感じるのです。

・自分独りで研究したい。・・・RGMSBDSは,過去何十人かの皆さんの先輩達の得た貴重な知見を基にしており,今でも開発が続いています。独りで成果を出したい方には向かない研究です。

ゼミ等の日程: セミナーは週4コマ。研究室で毎日研究活動が行なわれるのは当然のことです。

就職・進学についてのコメント: 就職の研究室枠は特になく,自分で探すことになります。

従来,卒研活動がより活発な学生の就職の方が早く,多く決まる傾向があります。大学院では博士後期課程の学位取得までの全ての研究活動をRGMSで行うことができます。RGMSのスタンダードは,卒研ではきちんとしたデータ取得・解析方法を会得して論文に寄与し,研究意欲があれば,修士課程では与えられた研究テーマの実験・解析を自ら計画・遂行し,さらに学術論文を自分で書き,なお研究活動への強い意志があれば,博士後期課程では,テーマ設定から論文公表までの全ての研究活動を独力で遂行する研究能力を示して博士の学位を取得することです。RGMS出身者で現在様々な大学で活動している皆さんの先輩は10人ほどで,アカデミックな研究活動への志向が比較的強いようです。他大学院や公務員試験受験希望者が研究活動に費やす時間はどうしても本学大学院希望者や就職希望者の1/3以下になることが多く,RGMSを選ぶ意味やメリットは少なく,寧ろリスクが大きくなるでしょう。

研究室の学生から卒研希望者への助言: 3年生の質問に応えるよう伝えておきますので,誰にでも直接聞いてください。しかし内容を私は関知しませんので,誤りがあっても仕方ないと心得ます。

面談日および場所: この期間中出張のため,必要な情報はホームページで取得してください。

質問はe-mailyagihara@keyaki….)でどうぞ。希望者は,説明会後から11/2210時までに,その旨e-mailでお知らせ下さい。その後何回かのやりとり後,面談を行ないます。これらのやりとりは適性の事前確認ですので,ある程度の時間が必要ですから,このスケジュール後の受け入れは難しいです。

備考: 事前確認なく希望された方を従来受け入れた事はありません。今回も同様に考えております。

 

 

2.RGMS大学院生,卒研生配属希望者とのQ&A

Q1) RGMSとは何ですか?

A1) Research Group of Molecular complex System (分子複雑系研究グループ)の略です。

Q2) RGMSの研究活動は?

A2) ホームページ(http://www.sp.u-tokai.ac.jp/~rgms/)をご参照ください。研究内容およびその成果を,publicationリストで確認することができます。

Q3) どのようにしてRGMSの研究活動に参加できますか?

A3) 物理学科の学部卒研生,大学院生になって参加するのが基本です。その他,他大学,他学部,他学科の卒研・大学院生として参加された方々もこれまで何人かおりますが,これらは研究室間の共同研究に基いた活動です。

Q4) どのようにしてRGMSの学部卒研生,大学院生になることができますか?

A4) 八木原研か新屋敷研に所属することになります。八木原研については前期のような募集要項に基いて応募していただくことになります。何回かメールでやりとりをして卒研活動の方法について確認した後,面談をします。卒業研究を自分のライフスタイルの中でどのように位置づけるかについて,私との考え方にずれがある場合には配属希望先を考え直していただく方がお互いのためだと考えています。希望人数が多い場合には選抜になる可能性があります。

 

 

3.研究者を目指す方とのQ&A

注意: 以下のQ&Aは,これまでいろいろな学生さんたちとのやりとりの中で繰り返されてきた代表的なものをまとめたものです。私の答えが絶対的なものでないことは当たり前としても,一方でその意味が学生さん達には正しく理解されていないと感じることが多いのも事実です。どうかあとはご自分でよく考えてみてください。また,これらは質問されることがよくあるのでここに記述したものであり,私の研究室の卒業研究では,目的を学術的な研究活動に設定していますので,私が大学院受験のための学習活動のケアをすることは一切ありませんので誤解しないで下さい。

Q1) 研究者を目指す学生はまず何をすべきですか?

A1) いろいろな経歴の研究者がいますので,後のご質問でも同様ですが,唯一の答えはありません。しかし一般論として言えば,学部学生であれば,卒研に入る前にカリキュラムで用意された講義から基礎学力をきちんとモノにし,各論として履修したこれらの基礎科目にその後の専門科目を加え,ネットワークを形成していく物理学の体系として理解するように努めることです。この意味で,実験のレポート作成を総合的な物理学演習と位置づけて自らに課すことは賢い学習法のひとつだと思います。一方自分が興味をもっている分野については,カリキュラムのスケジュールに束縛されることなく学習を進め,自分の興味を検証していくことが重要です。より深く知ることで興味が変わっていくのは当然で,特に物理学では自然科学の広い分野を視野に入れて自分の興味を検証していってください。卒業研究での研究室配属前に急いで考えようとしても,これらの検証の時間は圧倒的に足りず,遅すぎます・・・・そんな人はいない,でしょうね?

Q2) 一番初めの研究活動はどのようになされるものですか?

A2) 卒研を利用するのがオーソドックスなアプローチであると言えます。逆に言えばそれまでにすべきことをしておく。つまりA1で延べたことをしておくことです。そのうえでさらにどの研究室を選ぶのかを考えてください。研究者としての能力開発は一人ではできません。その意味で,自分の興味だけで研究室を決めることが必ずしも良いわけではありません。将来の夢に現在の出会いやタイミングも考え,決断してください。もしも研究者を目指すのであれば,卒研の選択が人生を左右することになります。そこで間違えれば,またはじめからやり直しです。あなたの研究能力がはじめて試されるのが研究室選びなのです。

Q3) 研究者になるためには何をすべきですか?

A3) 研究者といっても様々な範疇があります。ここでは最もご質問の多いケースとして,アカデミックな世界の研究者についてご説明します。結論から言うと,大学院に進学して修士課程在学中に学術論文を書くことが皆さんにとっての最も単純明快な要件です。これを実現することが,多くの大学院の博士課程で研究活動を継続することを可能にするでしょう。分野によってはこの基準がもっと低いこともあるでしょうが,もしもあなたが国際的に通じるスタンダードで考えたければ,この基準を下げてはいけません。あなたが修士課程で示した成果には偶然やら運やらもあるかもしれませんが,それも含めてあなたの能力であると判断されます。ですからこの基準をクリアしない場合には,あなたは先生や先輩などの助けをお借りして進学することを余儀なくされます。もちろんこれをクリアしたからといって独力でどこでも進学できる,ということはありません。重要なのは,こういう基準をクリアすることであなた自身の夢とか動機とか,また自己評価が単純明快になり,健全な能力開発が可能になることです。博士課程後期では自分の研究について何らかの体系化が必要です。極端に言えば,同じデータで同じ学術論文を書いても,博士論文は同じとは限りません。どこかに自分のオリジナルなスタイルを作らなければ博士論文としてまとめる意味はないでしょう。そしてさらにポスドク(postdoctoral fellow)としての生活を送りながら,自分の裁量で研究活動を行なうことが可能なポジションを狙うことになります。博士論文が出来上がるまではそれに徹底的に拘り,学位取得の後は早くそれを超えて過去のものとしてしまうことが重要です。ポスドクは研究室にとって最も重要な若手研究者群で,規模の大きな研究室の研究レベルはそこのポスドク達の質で決まります。最近は日本でもいろいろなポスドクのポジションがありますが,少し前まで日本にはこのようなポジションはほとんどなく,外国でポスドク生活を送ることが数少ない選択肢のひとつでした。ポスドクは支払われる給料に見合った研究成果,つまり学術論文を研究室にもたらすことを要求されますが,この辺りの考え方が日本ではまだ明確には根付いていないようです。分野にもよりますし,研究内容によっても異なりますが,ポスドクには年間2-4本程度の学術論文がアウトプットとして期待されていると思われます。ポスドクのポジションを得て研究室に合流すると,はじめの2週間は住まいや車探し,新たな生活の準備から子供の学校まで,あらゆる事務手続きに追われてとても忙しいでしょう。しかしこれらの手続きの最中であるにも関わらず,このはじめの2週間の間に自分の仕事をどこまでセットアップして進められるかで,ボスや学生達からポスドクとしての品定めをされてしまうでしょう。ポスドクは学生たちの目前で生の研究活動を行なうわけですから,学生たちに最も大きな影響を与え,研究室のアクティビティの将来まで左右してしまうほど重要な役回りを担っています。逆にポスドクから見た場合には,それまで拘束されていた学位取得のスケジュールや将来の研究室運営,学生教育とはまだ無縁な,最も充実した研究活動を送るライフスタイルを貫ける唯一の貴重な期間です。自分自身の能力開発と将来を決定するポスドク時代には,自分の裁量の範囲で思い通りにコントロールできる研究活動とともに自分の思うようにはならない研究以外のさまざまな辛酸とが共存していますが,後になってみれば,とても重要な意味を持った充実した日々であったことに気付かされることになります。アカデミックなポジションを獲得するためには,学位取得の後に,単にそれまでの継続ではない,複数の高いレベルの研究を行ない,自分の研究能力を周囲に見せつけることが必要不可欠です。

Q4) どのようにして論文を書けば良いのですか?

A4) アマチュアではなく,プロフェッショナルな研究者と仕事をすることです。

Q5) 理想的な研究室とは?

A5) 研究室や研究活動のあり方は千差万別ですから,このご質問にお答えするのはなかなか難しいものがあります。たとえば,より多くの優秀な研究者群の中でもまれることがとてもよい経験であることは誰から見ても間違いないところでしょう。しかしたとえば,ディスカッションをする人が7人いる,と言う人がいた場合,34人目以降の方は他の研究室や別の大学の方でも良いのではないかと思うのです。むしろ最も頻繁に議論する23人がとても重要なはずです。ですから,学生の立場から見た場合の一般論としては,研究室に一人以上のプロフェッショナルな研究者がいることと,意味のあるディスカッションを行なうことができる数人の研究者や同僚がいること,それが最低限必要な全てであって,それ以上のことはおまけです。米国流のHow To本,「研究者になるためには」なんて本には,たとえば大学院生ならGordon Conferenceで目立つ質問をすること,ポスドクではノーベル賞級の研究者がいて研究費が潤沢な研究室を選ぶこと,などがあっけらかんと書かれています。北米は単純明快な評価基準による競争社会であり,研究者の世界もこのような評価基準によって定義されているようなものです。それを受け入れないのならば別の世界を選べば良いのです。そして大事なことはそれぞれの価値観を伴って多様な世界が成立していることです。このような社会の評価基準を,日本のように数少ない価値観と複雑怪奇な評価基準を容認する社会が中途半端に導入すると,同じものが全く別の意味に変容してしまいます。研究者になるために,入学難易度という中高校生レベルの格付けによる上位校に所属し,研究室のボスの政治力が強くコネが利くことが不可欠,などと政治家まがいの価値観で考えられては,現場の研究者はたまったものではありませんが,これらは典型的な例です。これらは文科省が本来目指している競争的な研究環境とは全く異なる事象の,単なる子供達への競争的な学習強要とオジサン達の競争的政治環境に過ぎません。これらが若い人の研究能力開発のための平等な競争であると満足している研究者は少数であるのにも関わらず,このような非研究者的な考え方から脱しきることが未だにできていないのが今日の科学・技術政策だと思います。日本人のノーベル賞受賞がまだ続きますが,それは個々の研究室・研究グループレベルでのひたむきな研究活動の結果であって,この問題の解決とは関係ありません。皆さんにとっての問題は,このような科学・技術政策にとっての理想的な研究環境なるものが若手研究者にとっては諸刃の剣であるということです。研究成果の形式的な評価システムに基づく巨額な研究リソースの無批判な集中やそれを呼び込む政治力など,研究環境を形成する個々の要素それ自体が,時として学生個人の能力開発の機会を奪うことがあるのです。このような研究環境で適応していく研究者のみが,平等な競争的環境で育成された優秀な若手研究者であると定義しようとするかの如き現状を,北米での研究環境や研究教育活動の周辺に展開されている多彩な学術的活動と重ね合わせてみたとき,少なくとも私は赤面を禁じ得ません。皆さんにとっての理想的な研究室に求められる必要条件は,少なくとも学生自身の研究活動において,研究成果を出しながら自分の能力開発を行うことができることと,研究室やグループの中で自分独自の存在価値があること,のふたつが満たされていることでしょう。研究室や研究グループにはそれぞれの伝統や特徴があり,各学生の能力以上の力を引き出すことがその主宰者に求められています。しかしこれらを自分の能力そのものと本人が錯覚してしまうと,それ以上の能力開発の機会を逸してしまう致命的なリスクを背負い込むことにもなりかねません。どうか大型プロジェクトを批判しているなどと誤解しないで下さい。どんな研究形態であっても,結局のところあなたにとって決定的に重要なのは周囲の数人の研究者であって,あなたの能力開発の成否はその人達たちとどのようなディスカッションをするのか,で決まると憶えておいてください。

Q6) 生物科学分野での他大学院受験のために必要な準備は?

A6) 受験のみの問題ではなく,進学まで,さらに進学後にも気をつけるべきことがいくつかあります。まず,生命科学分野の大学院ではそれぞれの専攻や講座が物理,化学,生物やその他,さまざまな系列の前歴を有しており,研究内容やアプローチ,さらに入試もそれに対応し,物理,化学,生物の3分野でその重みに特徴を付けた内容になるでしょう。場合によってはこのうちの2分野を選択するなど,形態もさまざまと思われますので,自分が研究活動を希望する研究室を受験するための入試形態を早く調査すべきです。以下,本物理学科で標準的なカリキュラムに沿った受講を行なっている受験生について,予想される学習要件を説明します。 (0) まず,本学のカリキュラムで標準的な物理をマスターしているとしましょう。さらに,生命科学に興味があってそれについて調べたり勉強したりしているのであれば,化学結合論や基本的な生体高分子の立体構造の初歩について多少は知っているはずだとします。これらをほとんど知らないという人の生命科学に関する興味はほとんど高校レベルのままで,大学に入ってからその興味を自ら伸ばしてこなかったことになりますので,本当にその分野に興味があるのかどうかも疑問だと思われます。逆に,物理系学生にとっては,無機化学や有機化学については進学後に研究活動上必要な部分から学習する方が現実的かもしれません。その場合,入試で欠落してしまうことになるこれらの化学系の分野を物理化学の分野でカバーせざるを得ないでしょう。また入試以前に,生命科学分野の大学院に東海大学の物理から進学する場合,物理学科のカリキュラムでは用意されていない基礎勉強が必要です。通常生命科学系大学院への内部進学者は既に学習しているでしょうから,大学院で研究をスタートするときにはこれらをマスターしているのが前提です。従って本物理学科から生物系外部大学院への進学を希望する学生は,受験または進学前に以下の準備をしておかなくてはなりません。 (1) 化学物理(物理化学,熱・統計物理学・・・): 物理学科では,本来広く物質の熱力学的性質を議論すべきこの分野が,まるで理想気体か電子気体しかこの世に無いかのような貧弱な自然観に留まった熱力学しか描けない人もいるようです。一般に物理系の学部教育で化学物理が決定的に不足しているということはあるにしても,もしも物質(当然生体を含む)をあつかいたければ,自分でもっと分厚く熱・統計物理学を修得する努力が必要です。入試対策としても,この部分を物理化学で補強することには極めて重要な意味があります。 (2) 構造主義的生物学: 分子構造を量子力学から解釈して,電子密度の空間分布として捉えた物質構造で物性を解釈するための理論・実験両面での基礎。このような,元々物理屋が量子論を武器にして開拓してきた物理の新たな派生分野を,物理を勉強する自分とは無縁である,と思い込んでいるノンビリした学生さんも多いようですが,生命科学に興味があって,特に物理からアプローチしようと考えるのなら,この武器を磨いて自分のアイデンティティーとしなければ,あなたの研究者としての存在価値は半減してしまいます。 (3) 情報論的生命科学: 核酸に保持されている情報から生体を構築していくメカニズムをはじめとする生体情報の流れ(遺伝,発生,神経系・・・)に関する基礎。ここが入試でどうあつかわれるかで,そこの大学院の特徴(どこまで物理,化学系学生を受け入れるのか?)が明確になるでしょう。逆に,自分がこの分野を志望していると主張する学生が本気かどうかを試問するには最適な分野でもあります。

Q7) 他大学の大学院を受験する際の注意は?

A7) 以下のリスクも理解したうえでこの道を選択する場合,あとは持てる力の全てを使って最善を尽くしてください。最近の入試の多様化で,大学院の入学者ももはや同じ土俵で能力評価をすることが難しくなりつつあります。他大学進学者として奨学金を希望する場合,その選考・採択状況についてはある程度のリスクを覚悟することも必要でしょう。最近の就職活動を見ると,早い業種だと修了前年度の秋に就職活動が始まります。他大学進学者にとっては研究室に配属されて僅か半年後のことです。場合によってはまだ文献調査や予備実験も終えていない場合すらあるでしょうから,特に進学希望の場合には就職との板ばさみになりがちです。これらの就職や進学についてのリスクは致し方ないとして,そもそも研究内容やその進捗状況を考えたとき,これらの厳しい状況を自分が受け入れてポジティブに評価できることが必要です。その辺りの考え方を自ら確認したうえで決断してください。決断したら,一刻も早くやるべきことを始めて全力で突き進むことです。

 

 

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Last Revised: Jan. 2005