RGMS

Research Group of Molecular complex System

研究概要

従来の物性物理学の分野で大きな成功を示した固体物理学では,結晶構造をとる物質が主に取り扱われてきた。この分野の進展は量子論を取り入れた以降の現代物理学の代表的な成功物語であり,ここで手に入れられたアプローチは結晶だけでなく,アモルファス物質にまで拡張されてきている。

一方,これらの固体物理学的アプローチが適用できない物質群の物性の領域では,依然として決定的な唯一のアプローチがあるわけではなく,この領域だけで成立する独特の物理法則があるわけでもない。単純な原子でも乱雑に並べば,正確なポテンシャルを記述することができず,単純な分子でも凝集すれば階層的で複雑な高次構造を作り,高分子であればその階層的な高次構造がさらに時間や周囲の物理条件で劇的に変化する。これらの一見不確定な要素もその素過程は通常の物理現象であり,それらが組み合わされることによって圧倒的に複雑さが増大し,従来の我々の理論的知見や観測技術は無力化されてしまう。たとえば従来のアプローチによる絶望的に膨大な手順を経てその複雑な静的構造が決定されたとしても,その構造が変化し,さらにその変化のしかたに物質機能発現の意味が含まれているのであれば,静的構造の決定は致命的に乏しい情報量の獲得でしかなくなってしまう。これらの複雑系物質を研究する我々に必要なのは動的構造の情報である。

典型的な例は生体系における生命現象であろう。ここでは多くの物質が,多くのプロセスを経て全体として秩序形成を成し遂げ,さらにこれを維持している。ここで行われる一連のプロセスでは,周囲の条件の高度な認識,判断,機能発現が階層的になされていく。それぞれの現象は通常の物理化学的現象であるが,微少な条件の変化で結果は大きく変化してしまう。この変化はランダムなものではなく,古典的決定論に基づく典型的なカオス的挙動である。さらに生命現象に特徴的なのは高度な自己修復機能である。我々には想像もできないほどに多様な物質が素過程を組み合わせて多彩で豊富な機能を発現していく。これらを理解するための決定的なアプローチは現在だれも持っていない。

以上で言及されてきた複雑系物質群では,分子レベルでの微細構造や動的挙動が物質全体のマクロな構造や性質を決めていくことから,それらを分子複雑系とよぶことにする。本研究グループの目的は,生体系を含む分子複雑系物質群の構造や性質・機能について,その分子レベルの動的構造から発現メカニズムを解明すると共に,広帯域誘電分光システムのセットアップによる新たな測定法の開発や,そのデータ解析手法に最新のユニヴァーサルな緩和理論を用いた新しい一般的アプローチを確立していくことにある。以下に研究計画の細目と内容を述べる。

  1. 複雑液体の動的構造
  2. 物質中の水の動的構造
  3. 複雑系の緩和現象とガラス転移
  4. 生体系の動的構造
  5. 広帯域誘電分光システムの開発